経済が成長しない時代を生きる私たちのアプリオリな不幸

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平成、令和と30年以上にわたり経済がほとんど成長していない日本。経済が成長しないのにインフレにもならず物価が停滞していることが唯一の僥倖か。とは言っても、収入は上がらない。しかも、政府と経営者は、サラリーマンの収入を上げないどころか、賞与や定期昇給という右肩上がりの時代の厄介な遺物を取り除くために「非正規社員」という新しいコンセプトまで創造した。「これで万事休す」サラリーマンは生きていくだけで精一杯となった。かと言って、投資で儲けようにも、いかにも資本主義らしい企業優遇の「ゼロ金利政策」に追随する国ばかりの世界。トドメはグローバルな「コロナ不況」。これでは利回りを追求する投資など夢のまた夢。

高度成長期の日本は良かった。大企業の社員や公務員になれば、40年間は安泰。しかも高額な退職金や公的年金のおかげで、現役時代に老後資金のことなど考えなくても、優雅な老後を送れたのである。 

人口が増加し経済が成長していた時代の日本で「土地神話」も生まれた。まとまった金があれば、土地を買っておきさえすれば、それを売却して簡単に利益が得られた。株式投資も、長期に保有すれば必ず儲かった。一方、投資に無頓着な人でも、郵便局に貯金したり保険商品を買っておけば、元本は10年で2倍、30年で10倍になった。 

大企業に勤めて、昭和の末から平成の初期に、役員にまで昇格した人ならば、定年までに数億円の金融資産と不動産を手にすることができただろう。定年後には、そうした資産の利回りだけで年間数千万円の収入となったはず。現在、5億円を超える金融資産を保有する世帯を「超富裕層」と呼ぶようだが、当時、大企業で役員になった祖父がいる世帯は「超富裕層」ばかりだろう。 

そもそも、大企業で役員になるような人たちは、会社に入ってから飲食で自腹を切ったことなどない人ばかり。年間数百万円の交際費で、毎日飲食、週末ゴルフの贅沢三昧。午前様になっても、若いうちはタクシー券、役員になったら社有車。とにかく会社の金をたくさん使った奴ほど出世する。おまけに、中元、歳暮には、倉庫が必要なくらいの届け物の山。 

おそらくバブルの頃から、すでに格差社会は始っていたのに、下々の人たちまでバブル(経済成長)の恩恵を受けていたので、あまり気にならなかったのだろう。古き良き時代である。 

しかし、経済が全く成長しない現代を生きる私たちは、心しなければならない。政府は、経済が成長しなくなった我が国で、いまだに高度成長期のようなバリバリの資本主義復活を求めて、ゼロ金利というメチャクチャな経済政策をとっている。 

そもそも経済が成長しないのだから、企業収益など上がらないし、収入も増えないなどということは「自明の理」。そんなことは分かっているが、収入が足りない分の補完として投資をしたいのだ。しかし、ゼロ金利では、所詮、富が拡大しないゼロサムゲームの世界。莫大な利益を得るのは「情報」を創り出すことができる「スーパー富裕層」のみ。 

経済が順調に成長している時代に生まれていれば、平均的な能力と真面目な努力で豊かになれた。しかし、経済がほとんど成長しない時代に生まれてしまったために、平均的な能力と真面目な努力だけでは決して豊かになれなくなった。この冷徹な事実を自覚しない限り明日はない。 

ただ、言っておきたいのは「私たちが決して悪いのでない。時代が悪い。」ということだ。そう、隕石の衝突で絶滅した恐竜のように。