独占禁止法違反にみる会社の自浄能力劣化のプロセス

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会社では、利益を上げる事業部門の社内でのステイタスは上がる。そして、部門のステイタスが高くなれば、人、物、金の経営資源をより多く使うことができるようになる。当然、その部門で働く人間の個人業績も向上する。しかも、人事考課も報酬も業績連動だから、人事考課は良くなるし報酬も増える。良いこと尽くめだ。そんな良いこと尽くめの部門には、労せずして甘い汁を吸おうと社内政治に長けた人間(いわゆる「社内政治家」)が集まってくる。

利益を上げて成長する事業部門には、他社との競争に勝ち抜き業績を上げてきた、能力と気概を持った社員が多い。だからこそ業績を伸してきたのだ。ところが、業績向上による組織の拡大に伴い、砂糖に群がる蟻のように社内政治家たちが集まってくる。彼ら彼女らは、日頃から、社内のどの部門に行けば出世コースに乗れるか、鵜の目鷹の目で探している。そんな社内政治家たちがいつの間にか、手練手管で元々その部門にいる人間の上に立ちコントロールするようになる。そうなると、部門創業期のようなコスト、技術、営業力で真剣勝負をするという正攻法なビジネスなどまどろっこしくてやってられないということになる。もっと手っ取り早く儲ける方法はないのかということになる。そうなると社内政治家の独壇場だ。「ビジネスは儲かりさえすれば結果オーライ」、「コンプライアンスなんて糞食らえ」と労せずして利益を上げられるブラックな仕組み作りに奔走する。

手っ取り早い方法としては、独占禁止法違反行為がある。本来ならば競争すべき同業他社と結託して競争を制限し、市場価格を自由自在に操り、労せずして利益を上げられるからだ。しかし、そんなことを続けていると当然のことながら競争力は著しく劣化する。競争力が劣化するから、結局、ますますブラックな仕組みに頼らざるを得なくなるという悪循環に陥る。そんな不正行為でも、露見せずに利益を上げている間は、誰も社内政治家たちに楯突くことはできない。まともな人間は部門から放逐され、社内政治家と配下の人間が牛耳るブラックな部門になっていく。

こうした部門では、同業他社との価格調整を司る担当者(いわゆる「業界担当者」)がエリート化する。しかも、それを助長するような人事処遇や評価まで行なわれるので、業界担当者に対しては、誰も意見を言えないし、批判もできくなる。そのうちに、業界担当者への過度な権限委譲が進み、決裁が形骸化し、実効性ある内部統制が行われなくなる。これだけでも大問題なのだが、これに加えて、管理部門による牽制が機能しなくなると、強い事業部門の力で管理部門が骨抜きにされ、事業部門の決定を追認するだけの脆弱な管理体制になる。ここまで来ると、もう止まらない。最終的には経営陣までもが、利益を優先して法令違反の事実を正面から取り上げないばかりか隠蔽までしようとする。もはや万事休す。会社自体の自浄能力は著しく劣化する。

儲けてさえいれば法令を遵守しなくとも、ある程度のことは許されるという大企業の驕り。社会的視点の欠如、ビジネスの原点の忘却、モラルの崩壊。所詮コンプライアンスは会社の対外的ポーズなどなど。市場環境の変化や顧客の視点を顧みず、重要なこと、核心に触れること、真剣に議論することを避け、ビジネスマンの本能である経済合理性すら見失ってしまう。大企業での不祥事の多くは、このような自浄能力劣化のプロセスを経て生じる。